2025年の大阪・関西万博をめぐって、「280億円の黒字になる」という報道が話題になりました。
しかし、その数字を冷静に見てみると、実際には運営の一部に限った収支であり、会場建設費やインフラ整備などは含まれていません。
「黒字」と報じられているのに、なぜ“赤字ではないか”という声が上がるのか――その背景には、会計処理の仕組みや報道の伝え方に理由があります。
この記事では、報道で示された黒字の意味をわかりやすく整理し、どこまでが本当の利益なのか、そしてなぜ誤解が生まれるのかを丁寧に解説します。
この記事でわかること
- 「280億円黒字」という数字の正確な意味
- 会計上の黒字と実際の財政負担の違い
- 会計区分の違いにより、黒字と見える構造
- 万博の収支を正しく理解するためのポイント
大阪万博「280億円黒字」報道の内容を整理
2025年大阪・関西万博の開催を前に、ニュースやSNSでは「大阪万博は280億円の黒字」といった報道が広まりました。多くの人が「え、そんなにもう儲かるの?」と驚いた一方で、「本当に黒字なの?」「どういう計算なの?」という疑問の声も多数上がっています。
実際、こうした“黒字発表”は、イベントの特定部分の収支に基づいた数字であることが多く、全体の経費や税金投入を含めると、必ずしも黒字とは言い切れません。ここでは、まずその「280億円黒字」が何を意味するのか、どの範囲の会計を指しているのかを整理していきます。
報道された「黒字額280億円」とは何を指すのか
「大阪万博が280億円黒字」という報道は、博覧会協会が発表した運営会計上の見通しを基にしています。これは、チケット販売、スポンサー協賛金、ライセンス収入など、いわゆる“運営収入”から運営費用を差し引いた結果がプラスになるというものです。
つまり、会場を動かし、イベントを回すための「運営部分」だけを切り取った数字なのです。
しかし、この運営収支は全体のごく一部にすぎません。たとえば、会場建設費、インフラ整備、警備費、輸送・交通費、周辺地域の整備など、巨額の費用は別会計として扱われており、それらは国や自治体、さらには私たちの税金によってまかなわれています。
このため、「280億円黒字」という言葉だけを聞くと、万博全体が利益を出しているように誤解されがちですが、実際には「一部の会計部門が黒字になる見込み」という意味にすぎないのです。
「収支対象」と「事業全体費用」の違い
多くの国際イベントでは、「収支対象」の範囲をどこまで含めるかが議論の的になります。大阪万博のケースでは、報道された黒字額は「博覧会協会が直接管理する運営事業」のみを対象としています。つまり、チケット・グッズ・スポンサー収入と、運営人件費やイベント企画費の差し引きに限った数字です。
一方、「事業全体費用」には、会場建設、交通インフラ、関連イベント、PR活動、治安・警備体制の強化など、国家・自治体が関与する支出が含まれます。これらは一般会計や別枠の予算として処理されるため、公式発表では「万博の経費」にカウントされないことが多いのです。
この構造が、「運営黒字なのに、実質的には赤字」と言われる原因になっています。
市民から見ると、「どこまでが万博費用なのか」が非常に分かりづらくなっており、結果的に“数字だけが一人歩き”してしまう傾向があります。
どこまでを含めて“黒字”と呼んでいるのか
黒字と呼ぶためには、どの範囲の収支を計算対象にしているかが重要です。大阪万博では、公式発表で示される「黒字」は協会が直接管理する運営事業のみ。そのため、建設費や関連インフラ費を含まない「限定的な黒字」と言えます。
一方で、海外万博の事例を見ても、運営部分が黒字でも全体で赤字というケースは珍しくありません。たとえば、2010年の上海万博では来場者数が7,000万人を超え、運営収支は黒字でしたが、会場整備や都市改造などを含めた総経費では巨額の赤字でした。大阪万博も同様に、運営だけを切り取れば黒字でも、国全体の支出を考慮すれば「実質赤字」と見ることができます。
このように、“黒字”という表現は正確な会計範囲を理解していないと誤解を招く恐れがあります。重要なのは、「誰の視点で、どの範囲の数字を見ているのか」という点
「黒字」と言われる理由
大阪万博の「280億円黒字」報道をめぐっては、数字自体よりも“その見せ方”が問題だと指摘されています。多くの人が「黒字=儲かっている」と考えがちですが、実際には、会計処理の範囲や算定基準の違いによって結果が大きく変わるのです。ここでは、イベント運営でよく使われる“限定収支”という手法や、除外される公費の仕組み、そして専門家が指摘する実質赤字の根拠について詳しく見ていきましょう。
イベント会計でよくある「限定収支」の手法
国際的なイベントでは、「どの部分を会計対象とするか」を恣意的に設定することがよくあります。たとえば、オリンピックや万博などの大規模イベントでは、「運営事業」と「インフラ整備事業」を切り離して会計処理するのが一般的です。
運営事業の中では、チケット売上・スポンサー契約・ライセンス料などが主な収入源で、これらの合計が支出を上回れば「黒字」と発表できます。
このような会計の区分は、必ずしも不正ではありません。国際博覧会協会(BIE)などが定める枠組みの中でも認められた方法です。しかし問題は、報道で「黒字」とだけ伝えられると、一般の人には「全体が利益を出している」と誤解されやすいという点にあります。
実際には、運営事業は全体経費の一部であり、道路整備、鉄道延伸、警備体制の強化などの巨額支出は別枠です。これらを考慮に入れなければ、真の損益は分からないのです。
公的資金や関連事業が除外される仕組み
もう一つのポイントは、「黒字会計の裏で公的資金がどのように使われているか」という点です。大阪万博の場合、会場建設費や交通インフラ整備費の多くは、国と大阪府・市が負担しています。これらは万博協会の会計には含まれず、一般会計から拠出されるため、協会側の収支がプラスになっても、国民全体では支出超過になる構造です。
つまり、協会の決算上は黒字でも、その裏では税金という形で巨額のコストが発生しているのです。この構図は、いわば支出範囲の設定によって、財政状況が異なって見える仕組みといえます。
このような「部分黒字・全体赤字」の現象は、過去のイベントでも見られました。たとえば、長野オリンピック(1998年)では大会組織委員会は黒字でしたが、関連インフラや施設維持費を含めると地方自治体に多大な赤字が残ったとされています。大阪万博も同様の構図に近いと考えられます。
専門家が指摘する「実質赤字」の根拠
多くの経済アナリストや行政学者は、大阪万博の「黒字見込み」は数字の切り取り方にすぎず、実質的には赤字の可能性が高いと見ています。主な根拠は3つあります。
- 運営黒字は一時的な収支にすぎない
運営期間が終われば収入源は消え、施設の撤去費や後処理費が残ります。これらの費用は協会ではなく公的部門が負担するケースが多く、結果的に赤字化します。 - インフラ整備費が膨大
会場である夢洲は埋め立て地であり、地盤改良や輸送路整備などに多額の費用がかかっています。一部の報道ではこれらの支出を含めれば、黒字どころか数千億円規模の赤字になる可能性もあると指摘されています。 - 維持管理コストの計上漏れ
万博終了後の跡地活用や施設維持費は、会計上の見込みに含まれないことが多く、これも実質的な負担です。
こうした指摘を踏まえると、「黒字」とは帳簿上の一時的な結果であり、長期的な視点で見れば「赤字的構造」が続くといえ
大阪万博の本当の収支をどう見るべきか
「黒字か赤字か」という単純な区分では語りきれないのが、大阪万博の実態です。運営上は黒字でも、その裏にあるインフラ整備費や人件費、税金負担などを考えれば、国全体としての支出は大きく膨らんでいます。つまり、“誰がどの範囲で負担するのか”を理解しなければ、真の意味での損益は見えてきません。ここでは、運営黒字と国民負担の関係、見えにくいコスト、そして報道を読み解く際のポイントを整理します。
運営黒字でも“国民負担”が増える構図
万博協会が発表する黒字とは、あくまでイベント運営の収支を指します。これは民間企業の決算とは異なり、赤字が出れば税金で補填される仕組みになっています。つまり、協会が黒字を出したとしても、それが国民の利益になるとは限りません。
なぜなら、協会の運営費や建設費の一部にはすでに多額の公的資金が投入されているからです。仮に協会の収支がプラスで終わっても、その資金の原資に税金が含まれていれば、「国民が負担して黒字を生んだ」という構図になってしまいます。
このため、経済学的に言えば、会計上の黒字よりも「財政負担の総額」を重視する必要があります。大阪万博が経済的に成功したと評価できるかどうかは、開催後に地域経済の波及効果や観光需要がどれだけ持続するかによって決まるのです。短期的な数字だけで「成功」「失敗」を判断するのは早計と言えるでしょう。
会場整備費・警備費など見えないコスト
大阪万博の総費用を考える際に忘れてはならないのが、“目に見えにくい支出”の存在です。会場となる夢洲では地盤改良や交通アクセスの整備が進められていますが、その多くは国や自治体が直接発注し、一般会計から支出されています。これらは協会の帳簿には載らず、黒字発表の計算から除外されています。
また、開催期間中の警備・交通管理・医療体制なども莫大な費用がかかります。これらは「安全対策費」として別途計上されるため、報道で示される運営収支とは別物です。
たとえば、警備費だけでも数百億円規模とされ、さらに会場撤去や跡地活用にも長期的な費用がかかる見込みです。こうした隠れたコストを合算すると、たとえ運営部分が黒字でも、最終的な収支は大きく赤字になる可能性が高いと考えられています。
黒字発表をどう受け止めるかのポイント
結局のところ、「黒字」という言葉をそのまま信じるのではなく、どの会計範囲での黒字なのかを確認することが重要です。
もし報道で「大阪万博は280億円黒字」と伝えられていたら、「それは運営会計の話か?」「インフラ費や関連支出は含まれているのか?」といった視点で見直す必要があります。
また、黒字発表は政治的・広報的な意味合いを持つ場合もあります。開催に向けた世論形成や投資促進のために報道や行政発表には、広報上の意図が含まれる場合もあります。
一方で、万博そのものがもたらす文化的・技術的価値を否定するわけではありません。重要なのは、財政面の現実を冷静に理解した上で、次の国際イベントにどう生かすかという視点です。
まとめ
この記事のポイントをまとめます。
- 「280億円黒字」は万博協会の運営会計上の数字である
- 会場建設費や交通インフラ費などは別会計として除外されている
- 公的資金の投入が多く、国民負担の増加が避けられない構造
- イベント運営の一部が黒字でも、全体では赤字の可能性が高い
- 「黒字報道」は範囲を限定した会計上の表現である
- 専門家は“実質赤字”と見る意見が多い
- 隠れたコスト(警備費・維持費・撤去費)も巨額に及ぶ
- 黒字発表には政治的・広報的意図が含まれる場合もある
- 収支だけでなく、文化的・社会的な意義も評価軸にすべき
- 数字を鵜呑みにせず、会計の範囲と背景を理解することが大切
大阪万博の「280億円黒字」という言葉は、耳触りのよいニュースとして広がりましたが、その中身をよく見ると、運営の一部に限定された数字であることがわかります。短期的な財政収支だけでなく、地域経済への波及効果を含めて総合的に評価する必要があります。
とはいえ、万博がもたらす経済効果や国際的な注目度には一定の価値があります。大切なのは、数字だけを見て一喜一憂するのではなく、「どのような負担で、どんな成果が残るのか」を冷静に見極める視点です。次回以降の国際イベントでも、同じような“黒字報道”の仕組みを理解し、より透明な会計が求められるでしょう。